お嬢サト子の裏切り(5)失礼なお祝い
やはりサト子は非常識なのだろうか。
あまり嬉しくない誕生日の祝い方をされたことがある。
サト子と仲良くなったのは私の誕生日の2週間ほど前だった。
彼女はおそらく友達との距離を詰めたがるタイプで、すぐさま誕生日を聞かれた。
そして誕生日当日。プレゼントを渡された。
これはすごく嬉しかった。
私は夏生まれで、学校生活だと友達ができて仲良くなり出したくらいに誕生日がくる。
お互いに「誕生日いつ?」と気にする頃には自分の誕生日が過ぎていることが多く、これから来る相手の誕生日は聞いた以上は祝わなければならないけど翌年クラスが離れたら私は祝ってもらえないという、なんとも与えてばかりで終わりがちなのが嫌だった。
(ていうか祝ってもらった相手のことはクラス変わっても気にしとけ)
サト子とは知り合って間もなかったのにちゃんと祝おうとしてくれた気持ちがすごく嬉しかった。
しかし。
問題はプレゼントだ。
掌に収まる紙袋を渡された。
中を開けると鉛筆削りとカードが入っていた。
鉛筆削り・・・
鉛筆さして手動で回すプラスチック製のアレだ。
しかも文具売り場によくありそうなキャラ物で小学生の筆箱に入っていそうなやつだった。
このご時世。しかも高校生。シャーペンが主流。
大人の女性であればアイブロウ(眉ペン)を削るときに使用するかもしれないが。
しかも不親切にも削ったらカスがそのまま下に落ちるタイプだった。
サト子曰く「黒子は絵を描くから」。
そう。私は当時美術系でデッサンをしていた。
しかしデッサンには鉛筆削りは使わない。
絵を描く人はご存知だろうが、デッサンは一般的な鉛筆削りで削った程度の芯では足りない。必ずカッターやナイフで芯を1センチほど出す。それ以上出すこともある。
なので鉛筆削りは本当に不要なのだ。もらったところで他に代用もできない。
そして何よりサト子には絵を描く際の鉛筆事情は話してあった。
その話をした時のサト子の反応は、
「へーそうなんだ!」
「カッターで鉛筆削るんだね!すごい!」
とか言っていたが、生返事だったのか忘れたのかとにかく覚えていないことが判明。
そして大問題なのはカード。
お祝いのメッセージが書かれていたのだが、メッセージカードではない。
いわゆるショップカード。
ショップ名やロゴマーク、裏には地図や支店名・連絡先等記載されているあの名刺のようなカードだ。
サト子はそのカードの裏面、つまり地図や支店の詳細が記載されている上からサインペンでお祝いのメッセージを書いていた。
「お誕生日おめでとう。これからも素敵な絵を描いてください」
とか書いてあったと思う。
そしてこのプレゼントをもらう際にサト子が言った一言。
「私ね、お友達のプレゼントは300円以内って決めてるんだ」
ごめん、全部嬉しくない。
”気持ちが大事”とはよく言ったものだ。
ある意味サト子の気持ちが全部モノに現れているではないか。
・人の話を聞いていない
祝おうという気持ちは嬉しかったがプレゼントによって人の話をテキトーに聞いてた感がバレた。
批判覚悟でもうひとつ言わせてもらいたいのが、ずっと絵を描いているのだから鉛筆を削る手段があるに決まってるだろうが。
・メッセージカードをケチる
メッセージなんてルーズリーフや画用紙等なんでもいい。
手紙というのは相手に気持ちを伝えるものであってデザインは二の次だとも思う。
しかし用途の違う出来上がったカードの、しかも印字の上から書くのは絶対に良くない。
さしずめ”きちんとしたカードを渡したかったがメッセージカードを買いたくなかった”ため、それらしき形のショップカードを使用したのだろう。
メッセージの内容が良くてもテキトーさとケチさが現れていて大変失礼だ。
・300円以内
女子高生の金銭事情はさて置き、それ伝える必要ないだろ。
ギフトは金額を伝えないのがマナー。
値札は外すのが鉄則。
金額(しかも300円以内)を伝えてしまうと”その程度のものでいい”と伝えているようなものだ。
友達を大事に思っていそうでしっかりケチさが優先されるのがサト子。
”お祝いやプレゼントは気持ちが大事”
サト子の”祝いたい気持ち”よりも彼女の本質が垣間見えた失礼なお祝いだった。
垣間見えるどころか普段から丸見えか。