超鈍感セクハラ男(9)「今日もかわいかったですよ。」
その夜、T氏からメールが届いた。
「こちらも今会議終わりました」
21時過ぎだったと思う。
もちろん私はとっくに帰宅している。
普通にいらない連絡である。
だがその後もっと不要で迷惑なメールが届いた。
22時過ぎ。
知らない電話番号からショートメールが届いた。
すごく嫌な予感。
「Tです。今日もかわいかったですよ。」
肝っ!!
とうとうT氏は個人スマホから連絡してきた。
これはもう完全にアウト。
私の個人情報を勝手に自分のプライベートのスマホに登録した上、既婚者のくせに口説いてきた動かぬ証拠だ。
今までは会社支給のスマホから、あくまで仕事の話をきっかけに言い逃れできるようなメールばかりよこしてきていたが、自ら言い訳できないモノをよこしてきた。
公私混同甚だしい。
ここらで一度「迷惑です」とか「時間外に緊急性のない連絡はやめてください」とか言ってやりたいところだが。
しなかった。
実は私はT氏のセクハラメールについて派遣元と派遣先の両方に報告するつもりでいた。
やめてほしいだけであればもう少し早い段階で行動に移している。
しかしそれでは「そんなつもりではなかった」と言われて終わりだ。
そんなつもりあっただろ、って言える材料もない。
1対1の仕事なので、メール返信しなかったら翌日何か言われるのも面倒だし、その後仕事がやり辛くなるのも嫌だし、というのももちろんあった。
最初は本当に「どういうつもりなんだろう」と半信半疑でもあった。
半信半疑・・・オフホワイトじゃ白過ぎるな・・・
徐々に、限りなく黒に近いグレーだなと感じたため、とりあえず今まで泳がせといた。
見事釣れました。
しかし、一度かわいいと言われただけじゃ証拠として弱い。
今までのメールだって、私は送られてくる時間が嫌だったし、魂胆もわかってきたので迷惑だったが、メールの内容からして証拠としては弱い。
これもやはりT氏が「そんなつもりではなかった」と言えばそれで終わりだ。
おそらくT氏は言い逃れできる範囲でこちらに近づくことを計算し、ずっとこちらの許容範囲を探っていたのだ。
なので、この後もこのまましばし泳がせることにした。
もちろん、この個人的なメールに返信はしていない。
つづく