面倒なバツイチ男⑸「上司に直談判してくる!」
あれからもまた少々面倒は続く。
年が明け、会社の経営が傾き、派遣の私はあっさり切られてしまった。
どうやら社員ですらリストラされるらしい。
派遣はその年の年度末まで。要するに3月末で契約終了となった。
私の実際の契約期間は半年未満。
しょうがない。派遣とはそういうものだ。
時給も安いし、ぶっちゃ毎日暇だった。
それなりに居心地もよかったし、あっさり切られたことはショックだったが、私は現状を理解し、納得した上で次を探していた。
未練はない。
むしろ次の職場探し=新たな出会いにワクワクしていた。
ところがM氏は納得いかなかったようだ。
メールに「あまりのショックで思考が停止した」と書いてあった。
それは告白なんでしょうか。
「黒子ちゃんだけ退職なんてあり得ない!!」
いや、私だけではない。
事務派遣は全員切られるのだ。
そしてM氏のメールはこう続く。
「プロジェクトというのは誰か一人でも欠けると成立しないと思うんだ」
私、プロジェクト要員じゃなく部全体の事務要員です。雑用です。
「黒子ちゃん、いつも頼まれたことをしっかりこなしてくれたよね?」
コピーとかホッチキス留めとかテプラ作成とか?
「黒子ちゃんがきちんと仕事してくれたから、俺たちは安心して作業できたんだ」
コピーとかホッチキス留めとかテプラ作成とかが?
「このプロジェクトは誰一人欠けることなく終わらせたいし、俺たち部員が出張から戻ってきたときには黒子ちゃんにおかえりって迎えてほしい!」
公私混同。
「納得がいかないから上司に直談判してくる!」
歯。
ちょっと待て。
それじゃあ私が「辞めたくない」と影で嘆いたみたいじゃないか。
もう一度言うが、私はこの会社に未練はない。
現状を理解した上で前向きに次の職場を探していた。
だいたい社員ですらリストラされるのに派遣が残れる訳がない。
頼むから恥ずかしいことはしないでくれ。
だが待ったをかけるのは手遅れだった。
メールを見たのが遅かったからだ。
その後どうなったかというと、
M氏は、昼休憩中の部の大ボスにアポなしで話をしに行ったのである。
「黒井さんの契約を切らないでください」と。
OMG。
こちらをお読みの方々、「そんなことしてくれるなんて、なんていい人なんだ!」と思っているかもしれないが、私にとってはマジでありがた迷惑だ。
辞めたくないなんて言ってない。
契約継続も別に望んでいない。
望んでいるのはあんただけだ。
そして届いたメールには次のようなことが書かれていた。
・大ボスもどうにか黒子を留めたいと考えたが、会社全体の決定事項なのでどうしようもない
・M氏は大ボスに今の会社の状況を詳しく説明してもらったことで、派遣を切ることは仕方がないと理解した
そうか。理解してくれたか。そりゃよかった。
よくなかった。
メールの最後にこう書いてあった。
「でもやっぱり全然納得できない!」
「大ボスがダメなら他の部長や課長にも話してみる!」
「俺みたいなひよっこでも、まだまだやれることはあるはずだから!俺頑張るよ!」
いやだから頼んでないって。
恋はいつでもハリケーン。
つづく