面倒なバツイチ男⑶ 初メールで「黒子ちゃん」呼ばわり
その後、少し面倒なことになった。
そろそろ帰ろうという頃、S氏が私の連絡先を聞いてきた。
M氏を一生懸命フォローして慰めていたS氏だ。
S氏は独身で、エンジニアの派遣社員だった。
「黒井さん。こうしてせっかく飲み会に参加してくれたんだから、今後もまた一緒に飲もうよ。連絡先教えて。」
ぶっちゃけ嫌だった。
当時、私には彼氏がいたが、「彼氏がいるからごめんなさい」は言いたくなかった。
それって彼氏基準で動いているみたいだし、彼氏がいるいない関係なく、自分の意思で誰と付き合うかを決めたいからだ。
しかも「彼氏がいるから連絡先は教えられない」というのは、相手が告白してきて断ったときの返答に思えて嫌だった。
今回の飲み会でS氏が思ったよりいい人だということは分かったが、個人的に関わりたくない人だった。
しかし、S氏とは席も離れているし仕事でも関わらない。
たとえメールが来たところで簡単にあしらえるだろう。
ということで、うまい断り方が思いつかずに承諾した。
だが話は思わぬ方へいってしまった。
S氏はガラケーで、赤外線での連絡先交換しか分からないと言うのだ。
私はスマホで赤外線なんかついていなかった。
「俺スマホとの交換のし方がわかんないから、そっちで交換しといて。」
と、S氏が話を振ったのはM氏だった。
マズイ。
M氏はもっと嫌だ。
M氏とは社内で隣の席で、いつも大変お世話になっている。
しかし、正直言うとプライベートでは付き合いたくない。
いい人だが、⑴⑵に記載した通り面倒なのだ。
気持ちも熱いのだ。
M氏とはあくまで会社だけの付き合いでありたかったが、これももう断れなかった。
S氏には承諾したのにM氏はダメとは言えない。
しかたなくM氏と連絡先を交換した。
会計はM氏のおごりで全員ご馳走になった。
不本意だが連絡先も聞いたし、一言お礼のメールを入れておくことにした。
入れ違いでM氏からメールが届いた。
かなりの長文。
飲み会に来てくれてありがとう
楽しかった
など。
そして最後の一文がものすごく気持ち悪かった。
「黒子ちゃん、気をつけて帰ってね」
いきなり下の名前で「ちゃん」付けされたのだ。
会社ではもちろん苗字で「黒井さん」と呼ばれる。
この日の飲み会でも終始「黒井さん」だった。
彼らの飲み会に参加したことで変に仲間意識でも持たれたのか。
とりあえず明日会社でも「黒子ちゃん」呼ばわりされたら訂正してやろうと思っていた。
つづく