面倒なバツイチ男⑵「この話は簡単には話さないよ!」
あの後、数名の飲み会に参加した。
私を含め5人だったと思う。
その内2人はM氏の家庭の事情を把握している人だった。
”M氏の家庭の事情には触れてはいけない”
これは社内での暗黙の了解だった。
皆が共通で理解しているのは、
”M氏が離婚したかは不明だが、子供と奥さんとは別居中”
ということ。
M氏もあまり触れて欲しくないという感じだったため、皆が事情を知らないなりに気を遣っていた。
だがM氏は飲み会の席で、事あるごとにある前置きをする。
「自分は、家庭の暖かさを経験したことがあるので気持ちがすごく分かるんですけど・・・」
「ホントに、おかえりって言ってくれる人がいるっていいですよね・・・」
「家庭があるとそうですよね、自分も経験あるので分かります・・・」
「家庭を持って気づくことってありますよね・・・」
そして事情を把握している人と、少しその内容に触れるようなことを自ら喋るのだ。
なんなの?
これはもう、触れてくれって言っているのか。
ダチョウ倶楽部みたいな?
お酒が入って気分が良くなったら喋っちゃうかもとか言ってたな。
とりあえずこの後もずっとこの前置きが続くのは面倒なので、思い切って突っ込んでみた。
「Mさん、そのご家庭のお話し聞いてもいいですか?私はよく知らないんですが」
するとM氏、仰け反ってこう言った。
「この話はいくら黒井さんでもそう簡単には話さないよ!」
めんどくさ。
だったら自らその話題を出すんじゃねぇよ。
「お酒が入ったら喋っちゃうかもって言っていたので」
と私は苦笑いしてみた。
「いやいやいや!!ホントに簡単に話せるようなことじゃないよ。」
「すごく辛い思いをしたんだから。」
とM氏。
余計めんどくさい。
もう一度言うけど、だったら自らその話題を出すんじゃねぇよ。
すると事情を把握しているS氏がM氏のフォローを始めた。
「あんなことがあったんだから。お前は悪くない。」
「お前は被害者だ。あれだけのことをされて今は下がってるけど、今後はきっと上がる一方だよ、大丈夫だって。」
「あれはマジでひどいよ。」
「またきっといい出会いがあるよ。」
S氏は熱く語り、M氏は心からのお礼を述べていた。
その間、2人以外のメンバーは蚊帳の外。
お前らマジでよそでやってくんない?
つづく